プラズマアーク切断のトーチ冷却装置

PAC トーチ冷却装置コンポーネントの問題解決、修理、およびメンテナンス方法

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プラズマ切断の水冷装置は、自動車のエンジンに使用されている装置とよく似ています。どちらも水とクーラント、ポンプ、冷却ホース、熱交換器を使用して、熱源からエネルギーを排除します。自動車では、熱源は 2,000°F を超える温度で動作するエンジン内の燃焼室です。プラズマトーチの熱源はトーチ内のプラズマチャンバーで、アークの温度は 20,000°F を超えることもあります。

自動車のエンジンと同様に、プラズマトーチは放熱、対流、伝導の組み合わせで冷却されます。エネルギーは、強力な紫外線としてアークから放熱します。トーチとトーチ部品から、ガスやエアの対流によって熱が奪われます。そして最後に、トーチ部品の熱は水冷装置によってクーラントへ移動します。

冷却装置内のコンポーネントに問題が発生し、伝熱による冷却が低下すると、システムが急速に過熱します。車のオーバーヒートを経験したことがある人なら、車から蒸気が出て道路わきで立ち往生した不便さだけでなく、たいていは新しいラジエーター、ホース、ヘッドガスケット、時にはエンジンブロックまで、その後に様々な修理が立て続けに発生することをご存知でしょう。プラズマシステムのオーバーヒートにも時間と費用がかかります。プラズマシステムが過熱すると、トーチ部品が素早く摩耗し、最終的にはトーチやリードが燃え尽きてしまうこともあります。問題を放置しておくと、モーターやポンプの交換が必要となることもあります。ただし、オーバーヒートによるダウンタイムや費用は、予防することができます。システムとそのコンポーネントを十分に把握しておけば、問題が発生したときにそれを解決し、予防保全メンテナンスを通じて将来の故障を予防することができます。

冷却装置

典型的な PAC 冷却装置は、トーチ、モーター、ポンプ、冷却ライン、フロースイッチ、フィルター、熱交換器、貯蔵器で構成されています。この記事では、これらの各コンポーネントの概要と、一般的な問題、その解決方法、およびメンテナンス手順を説明します。

プラズマトーチ

100~150A 以上 (15kVA) で動作するプラズマトーチには、トーチと部品の加熱を防ぐため水冷による冷却が必要です。図 1 は、冷却水の内部経路を示したプラズマトーチの断面図です。プラズマアークを発生する銅電極は、熱源に最も近くなるため、直接冷却が必要となります。ほとんどの高電力電極は、先端の冷却を高めるために、圧延されて空洞になっています。この圧延された部分に水管が延び、電極に小さな間隔で正確に位置調整され (通常は片側につきクリアランスは 0.015~0.020 インチ)、電極の裏面の内側にクーラントが高流速で流れるようになっています。このトーチのデザインでは、ノズルも水で冷却されます。

トーチの一般的な問題:

  • トーチの詰まり:トーチには時間の経過とともに粒子による詰まりが生じます。故障した電極から溶融した銅の粒子が小さな穴に詰まり、水流が減速したり遮断されることがあります。
  • 水管の損傷:水管が曲がったり、端が損傷したり、トーチに正しく締めて取り付けられていないと、冷却水の流れが低下します。
  • トーチの漏れ:O リングまたは O リングシール表面の損傷は、冷却液の漏れの原因となることがあります。トーチの裏面のチューブやフィッティングからクーラントが染み出て、タンクの水位が低下する原因になることがあります。

図 1 - プラズマトーチの冷却経路図 1 - プラズマトーチの冷却経路

クーラント

図 2 - トーチクーラント

図 2 - トーチクーラント

トーチクーラントは、凝固点を降下させる脱イオン水およびエチレンまたはプロピレングリコールの混合液です。凍結のリスクがない多くのショップでは、通常の脱イオン水を使用しています。システムに問題をきたす導電性イオンが含まれていない脱イオン水を使用しなければなりません。エチレンまたはプロピレングリコールは、自動車の冷却装置に使用されるものと同じ物質です。ただし、プラズマシステムには自動車用の凍結防止剤を絶対に使用しないでください!たいていの凍結防止剤には、小さな穴を詰まらせる物質が含まれています。このため、プラズマトーチへの使用には適していません。

クーラントの一般的な問題:

  • 汚染:時間の経過に伴い、クーラントはホースやワイヤー、故障部品からの銅、ごみ、さび、藻、その他の汚染物で汚染されることがあります。これらの汚染物は、冷却の効率性と流量率を低下させます。システムの洗い流し、新しいフィルター、および新しいクーラントが必要となる場合があります。
  • 導電性が高すぎる:クーラントの導電性が高すぎたり、反対に抵抗率が低すぎると、トーチ内の冷却水に電気が通る場合があります。これによって、トーチが電極とノズル間にアークを発生するときに、プラズマアークのスタートが困難な場合があります。新しいクーラントでも、メーカーの仕様に対応していないものはシステムの導電性要件を満たさない場合があります。OEM クーラントを使用するか、特別なテスターを使用してクーラントの導電性を定期的にテストすることが最善です。推奨レベルは 0.5 から 18 マイクロジーメンス/cm です (図 3 を参照)。

図 3 - クーラントの導電性の測定

図 3 - クーラントの導電性の測定

ポンプモーター

通常、プラズマシステムではモーターとポンプは直接連結されています。システム内にモーターとポンプが過酷に使用されるような制約条件がない限り、モーターには通常非常に長い耐用年数 (数年間) があります。

ロータリーベーンポンプは比較的シンプルで頑丈なことから、プラズマシステムに最もよく使用されています。ポンプの可動翼が炭素材から作られているため、カーボンベーンポンプとも呼ばれます。これらのポンプは通常、ポンプの動作圧力と流量を増加または減少するバイパスネジで調節できます。

ポンプの一般的な問題:

  • 通常のポンプの摩耗:常時使用による摩擦や熱から、カーボンベーンが多少摩耗することは正常です。この状態はポンプを調整することで解決できます。
  • 過剰なポンプの摩耗:これらのポンプのベアリングは、最終的には摩耗して、過度の騒音や熱の原因となり、ポンプの故障につながります。ポンプ翼の材質が、ポンプに圧力がかからなくなるまで摩耗することもあります。これらの部品は、ポンプを修理のため工場に送れば通常は交換できます。またはポンプ自体を交換する必要があります。
  • ポンプフィルターの詰まり:ほとんどのロータリーベーンポンプには小さなスクリーンフィルターが付いています。このフィルターが粒子で詰まり、流れが制限されることがあります。

図 4 - ポンプ圧力の調節

図 4 -
ポンプ圧力の調節

図 5 - ポンプ内のカーボンベーン

 

図 5 -
図 5 - ポンプ内のカーボンベーン

図 6 - ポンプスクリーンの取り外し

図 6 -
ポンプスクリーンの取り外し

冷却ライン

冷却ラインは、クーラントをプラズマトーチに運ぶホースです。通常はこれに DC 主電源ケーブルも含まれています。水冷式の電源ケーブルは、銅線 (複数のより線) や錫メッキ銅線の加熱を防ぎます。マシンアプリケーションでは、冷却ラインは柔軟性のあるケーブルトラックに通すか、切断機の上に取り付けます。

冷却ラインの一般的な問題:

  • 漏れ:ひびや切り傷のある、または融解したホースからは、目に見えない場所で冷却液が漏れることがあります。漏れがよく見られる場所は、取付けチューブ内のトーチのすぐ上です。
  • 詰まり:流れの詰まりは、プラズマトーチから再循環器へのリターンラインに最もよく見られる問題です。リターンリードにごみが蓄積すると、流れが制限されます。すずめっき銅電源ケーブルもまた、常時曲げた状態になると劣化して、銅製の繊維がホースの両端に詰まることがあります。リード内の詰まりは、流量の低下とポンプとモーターの摩耗の増加につながります。

図 7 - ホースを一部切り取った電源ケーブル断面図

図 7 - ホースを一部切り取った電源ケーブル断面図

フロースイッチ

フロースイッチは、クーラント流量が低下したときにトーチや部品の突発故障を防ぐように設計されています。真鍮製のブロックプランジャータイプの装置は通常、システムを実行するためには必ず満たされなければならないマイクロスイッチと共に使用されます。

フロースイッチの一般的な問題:

  • 機械的故障:機械プランジャーはクーラントフローによって作動します。プランジャーが開または閉位置になったままになると、故障したり、低流量状態でも故障しないの状態になることがあります。機械的な部分を取り外し、手入れをすることができる場合もありますが、交換することが最善策です。
  • 電気的故障:電気スイッチの故障はあまり一般的ではありませんが、スイッチ接点が摩耗した場合に発生することがあります。
  • フロースイッチの「解除」:前回の修理でシステムのフロースイッチが「解除」されたままになっていることは珍しくありません。フロースイッチは熱によるトーチの重大な故障を防ぐための安全機能であるため、これは危険な慣行です。

図 8 - フロースイッチ図 8 - フロースイッチ

図 9 - クーラントフィルター図 9 - クーラントフィルター

フィルター

ほとんどのシステムには、トーチクーラントから汚染物を取り除く粒子フィルターが使用されています。これらのフィルターは一般に販売されている水処理フィルターに似ており、通常は 5 ミクロンペーパーフィルターまたはイオン除去フィルターが使用されます。フィルターは 2~3 ヶ月毎、またはシステム内のクーラントフローが低下する毎に交換する必要があります。

フローフィルターの一般的な問題:

  • 汚染されたフィルター
  • 間違ったフィルターまたはフィルターなし

 

熱交換器

図 10 - 熱交換器の前面と後面
図 10 - 熱交換器の前面と後面

プラズマ冷却装置の熱交換器は、通常ラジエーターとファンの組み合わせでできています。ファンはラジエーターに空気を流し、トーチクーラントから熱を取り除きます。システムによっては冷蔵冷却装置を使ってトーチクーラントを冷却します。

熱交換器の一般的な問題:

  • ファンモーターの焼損:ファンはすべて定期的に点検し、機能していることを確認します。
  • 効率性の低下:冷却羽の汚れの蓄積は冷却効率を低下させます。ラジエーターはエアダスターを使って定期的に手入れする必要があります。

 

クーラント貯蔵器

図 11 - レベルスイッチと温度スイッチ付きのクーラント貯蔵器

図 11 - レベルスイッチと温度スイッチ付きのクーラント貯蔵器

クーラント貯蔵器は、トーチクーラントが入ったプラスチック製または金属製のタンクです。過熱を防ぐため、通常はタンク内にレベル指示器、フロートスイッチ、および温度スイッチが取付けられています。クーラント貯蔵器は毎日点検し、必要に応じて満タンして、常に十分なクーラントが供給されるようにします。クーラントのレベルが低すぎると、クーラントの流れに空気が入り、冷却力が低下します。システムが連結されている場合、クーラントレベルの低下が断続的または完全なシャットダウンの原因となることがあります。システムが連結されていない場合は、空気によってポンプが過熱したり故障したりすることがあります。

クーラント貯蔵器の一般的な問題:

  • 粒子汚染:タンクの底に粒子が蓄積することがあります。これは洗い流して取り除く必要があります。タンクを定期的に取り外し、流水で洗い流すことが必要な場合があります。
  • クーラントのレベルの低下。

 

システムの問題解決方法

図 12 - 液体流量計

図 12 - 液体流量計

プラズマ冷却装置の個々のコンポーネントはすべて、ひとつの目的を確実に達成するために設計されています。つまり、十分な体積流量をトーチに流し、冷却されるようにすることです。流量は通常 1 分当たりのガロン数 (gpm)、または 1 分当たりのリットル数 (lpm) で測定されます。それぞれのトーチに、オペレーター取扱説明書の仕様セクションに記載されている特定の流量要件があります。典型的な流量は、1~1.5 gpm です。以下は、適切なクーラント流量の確認と流量問題の解決の段階的なアプローチです。

注意!必ずオペレーター取扱説明書を読み、安全上の注意をすべて理解してから、プラズマシステムのメンテナンスと問題解決を行ってください。

  1. トーチ部品を取り外します。問題の解決は、トーチから始めます。消耗部品を取り外し、過熱、汚染、または損傷の兆候がないか点検します。
  2. クーラントポンプをオンにします (流量の測定中、別の人にポンプの作動を継続してもらい、クーラントのレベルが低くなったら満タンにすることが必要です)。クーラントは、トーチ内の冷却チューブの中心から直接流れ出す必要があります。
  3. トーチへのクーラント供給流量を測定します。バケツを使って、冷却チューブから流れ出るクーラントを集めます。30 秒間クーラントを収集し、ポンプを停止します。溜まったクーラントの体積をガロンまたはリットル単位で測定します。溜まったクーラントのガロン数を時間 (0.5 分間) で割って、この体積を gpm または lpm 単位の流量率に換算します。この測定値を取扱説明書に記載されている特定の流量率と比較します。制限のない (部品が入っていない) トーチ内の流量は、メーカーの仕様を大きく上回ります。上回らない場合は、以下を点検します。
    • ポンプ圧力が低すぎる - ポンプ設定を調節します。
    • ポンプ内のスクリーンフィルターが詰まっている - フィルターを手入れします。
    • トーチへの供給ラインまたはトーチが詰まっている - エアダスターを使用してごみを取り除くか、交換します。
  4. トーチを組み立て直します。きれいな新しい部品を使って、トーチを組み立て直します。正しく流量チェックを行うためには部品を取り付けなければなりません。
  5. トーチからのクーラントのリターンフローを測定します。クーラントの流量率は、クーラント貯蔵器に戻る時点で測定する必要があります。クーラント貯蔵器からプラスチック製のホースを外します。再び、バケツを使い、別の人の助けを借りて、30 秒間クーラントを集め、ポンプを停止します。測定値を gpm に変換します。この流量率をメーカーの仕様と比較します。gpm 値がメーカーの仕様を超過しない場合は、以下を点検してください。
    • ポンプ圧力が低すぎる - ポンプ設定を調節します。
    • リターンクーラントラインまたはトーチの詰まり - エアダスターを使用してごみを取り除くか、交換します。
    • ラジエーターの詰まり - 高圧ウォッシャーを使って洗浄するか、交換します。
    • ペーパーフィルターの詰まり - 交換するか、問題を解決するため一時的に取り外します。

必要な場合は、詰まりが見つかるまで、疑われる各コンポーネントの下流側で流量をチェックすることができます。バケツテストの代替策として、0~2 gmp 範囲の液体流量測定用に設計された、安価な流量計を購入することができます。このシンプルな装置は、貯蔵器のリターン側に恒久的に取り付けておくことができます。プラズマシステムのメンテナンスを行うために、目で確認できる優れたツールとなり、費用のかかる故障の安価な保険の役割を果たします。