レーザーの精度:エンジニアが質や精度を指定してくるかもしれませんが、それが絶対に必要なものでなかった場合には無用のコストがかかることになります。

レーザーとプラズマはいずれも熱加工によって金属を切断するものですが、その仕組みは大きく違います。レーザーはどのタイプであっても(CO2 でもファイバーでも)、電磁放射の誘導放出による単色光の強力なコヒーレント光線を用います。集中光線を用いるメリットのひとつは、非常に高い精度での切断が可能なことです。それにより、仕上がりのばらつきを低減できます。レーザーは通常、0.25 mm 未満の寸法公差での部品切断が可能です。* 一方プラズマは、ガスを電離するまで励起して極限まで凝縮したアークを作り出し、超高温度のエネルギーを集中照射します。この方法では、X-Definition® 対応のプラズマシステムを使用した場合、部品切断の寸法公差は約 0.5 mm になります。
部品の精度や製造プロセスの仕様を重視する場合には代償もともないます。そのひとつが過剰に厳しい要件を満たすために生じるコストです。前述のレーザーとプラズマの精度の違いは、一般的な名刺の厚み程度の差でしかありません。「レーザーの質」や新しい機材に対応しようとして、レーザー機器あるいは設備のアップグレードを求めるよりもまずは、次のことを再確認してみるべきです。「この部品には、本当にここまで厳正な精度が必要なのだろうか?」
高い精度にともなう隠れたコスト
一般原則として、寸法公差が少ないほど、製造作業や製品に余分なコストがかかることになります。部品の形状やフィット、機能から見て、それほど高い精度が必要ではないなら、仕様が高精度であるほどオペレーションに無駄なコストが生じ、収益や競争力の減少につながります。
過剰に高い精度を求めると、次のような点でオペレーションに余分なコストがかかる可能性があります。
- 要求される精度を満たすために必要な工作機械の初期費用レーザーと X-Definition や XPR™、プラズマシステムを比較すると、投資コストの差は数十万ドルにものぼるおそれがあります。大きな投資は企業の貸借対照や減価償却費に影響をおよぼします。
- 検査装置のコスト高い精度を求めるほど、検査装置にかかるコストも高くなるのが常です。精度を巻尺やローテク機器で測る程度ならば、検査器具にかかる費用は最小限におさえられます。しかし、CMM(座標測定機)など、より高度な測定ツールが必要となれば、投資コストは最大 12 万ドルにものぼる可能性があります。さらには、正確な測定が難しいほどの精度を求めた場合、高い費用をかけても正しい結果が得られないことも考えられます。
- 頻繁な測定や、計測法の習得のためのトレーニング通常、高い精度を求めるほど、要件が守られているかをより頻繁に測定する必要があり、測定装置の使い方の習得に必要なトレーニングも多くなります。前述の例で説明すると、CMM を使用できる従業員には、巻尺で精度を測る従業員よりも高度なトレーニングと賃金が必要です。
- スクラップの量コストを上げるもうひとつの要素はスクラップに関連するものです。切断の工程もまた、指定の精度を確実に満たすものである必要があります。これが不十分であったり、時間の経過とともに効果が低下したりする場合には、スクラップの発生率が高まることになります。
- サプライチェーンの問題高い精度を求めれば、外注できる業者やニーズに対応できるサプライヤーも限られることになります。サプライヤーが限られ競争が減ると、価格も高くなりがちです。
- スループットの低下高い精度を要求すれば、切断速度とスループットが低下する可能性があります。素材の種類や厚さによっては作業コストが大幅に上がり、一定期間内に生産できる部品の数は少なくなります。
収益を最適化するには、部品に必要な機能に見合った寸法と仕様になるよう、しっかりした DFM(Design for Manufacturability:製造性考慮設計)をエンジニアリングとオペレーションに取り入れることを考えるべきです。
部品が切断機テーブルから溶接ブースまで運ばれる場合、例えば、溶接公差が部品の仕様で指定されている寸法公差を大きく上回れば、部品設計で厳しく精度が決められていても意味がありません。
精度については、高いほどよいという観念にとらわれないことをお勧めします。部品仕様は、部品のコストと実際に必要な機能のバランスを見て考え、不要な製造投資やコストを避けましょう。
*寸法公差は切断する金属素材の板厚によって異なる場合があります。