エアプラズマおよび酸素プラズマにおける電極の摩耗
電極の良い摩耗と悪い摩耗を見分けて、システム性能を高める方法
高出力プラズマ切断システム用の電極は、高度に開発された消耗部品で、設計、材質、および機能は自動車のスパークプラグに似ています。スパークプラグと同様に、電極は高温環境で高圧電気を放出します。材質はプラズマの温度やアークの放射に耐え、旋回する高速度ガスジェットに持ちこたえ、高圧のガスや液体に対する密封性がなければなりません。スパークプラグのように、電極はシステム内で最も過酷に使用される部品です。
優れたメカニックであれば、スパークプラグを見るだけで車の燃焼エンジンの状態について多くのことを把握できます。トレーニングを受けたプラズマ技術者も、電極の点検方法を学び、正常な摩耗パターンを理解し、そして問題の前兆を見極める方法を知っていれば、プラズマシステムについて同じことができるのです。
電極は、プラズマ電源装置から金属プレートに直流電流を運びます。通常は、ハフニウムでできた放射エレメントを入れた銅製または銅/銀複合材製のホルダーで構成されています。ハフニウムはエアや酸素を使った切断環境でアークを維持できる融点の高い金属です。放射エレメントはアークの熱と高速プラズマガスのストリームで少しづつ浸食されていきます。この摩耗のほとんどは、溶融したハフニウム材が素早く加熱・冷却し、再び固まる切断の開始と停止時点で起こります。
通常の摩耗では、部品の末端に小さなくぼみができて、一度に数千分の 1 インチの一定した割合で、トーチや消耗部品のデザインと材質によって深さ 0.040~0.125 インチまで減っていきます (以下の表を参照)。このくぼみが深くなりすぎると、アークがホルダー材に付着しホルダーが解け始めます。アークの開始と維持ができなくなると、電極は「故障」することになります。電極から溶融物質が流れ落ちてノズル穴に溜まると、「ブローアウト」と呼ばれる電極とノズル両方が突発故障する原因となります。
プラズマアーク切断 (PAC) システム | 銅電極 摩耗のインチ数 | 銅/銀複合材 摩耗のインチ数 |
高精度 PAC (酸素プラズマ) |
030 インチ~0.050 インチ | 0.060 インチ~0.080 インチ |
ウォーターインジェクション PAC |
040 インチ~0.080 インチ | 0.100 インチ~0.140 インチ |
従来型デュアルガス PAC (酸素プラズマ) | 0.040 インチ~0.080 インチ | 0.100 インチ~0.140 インチ |
従来型デュアルガス PAC | 0.090 インチ~0.120 インチ | 0.100 インチ~0.140 インチ |
最新のエアおよび酸素プラズマシステムの通常の部品寿命はアーク使用時間 1~2 時間、またはピアス 200~300 回分です。エアシステムでは通常この寿命の 2 倍、スタート回数 400~600 回を達成できます。これは空気に含まれる窒素の電極に対する反応性が低いためです。不活性の開始ガスと電流ランピングを使った酸素プラズマシステムでは、電極の交換が必要になるまでにスタート回数 1,000回 以上を達成できることがあります。
図 1
|
新しい状態 図 1 は、新しい電極の写真です。この例では、電極は溶接された銅/銀複合材設計で、電極の前方部分が銀製、裏側が銅製になっています。部品中央には、未使用のハフニウム製のエレメントが入っています。
|
図 2
|
通常の摩耗 図 2 は、通常の摩耗パターンのある電極を示しています。ハフニウムのくぼみがちょうど中央にできており、形状も一定です。これは消耗部品の位置調整が正しく行われ、プラズマガスが正しく旋回していることを示しています。くぼみの深さは約 0.100 インチです。部品の前方の縁は鋭く、はっきりとしています。銀の大きな変色は見られません。部品の前方表面に灰色に変色したわずかな酸化物が見えますが、これは正常です。
|
図 3
|
通常の摩耗 - 寿命の半減 図 3 は、別の理由で時期尚早に取り外された、通常の摩耗パターンのある電極を示しています。理由にはトーチが材料に載る、トーチの衝突、電圧の変化、切断品質の変化などがあります。くぼみ深さは 0.078 インチです。この部品は摩耗しているように見えますが、故障に近づくまでに、まだスタート回数 100 回以上、くぼみが 0.100 インチになるまで、場合によっては 0.140 インチになるまで燃焼できます。
|
図 4
|
中心を外れた燃焼 図 4 は、中心を外れた燃焼を示しています。これは簡単に見抜くことができる問題です。通常は、重大なガスフロー問題 (渦巻きリングの破損や詰まりなど)、またはトーチ部品のずれ(組み立てエラーやフィット問題のため) があることを意味します。トーチ部品を完全に交換しても問題が解消しない場合は、トーチが破損する可能性があります。
|
図 5
|
スタート時の湿気 図 5 は、アークのスタート中に湿気があった場合を示しています。これらの部品には、レンチフラットから電極の表面まで粗い渦巻き状のアークの溝ができています。プリフローガスに湿気があると、高周波数により銀材質が損傷します。銀部分の前方の縁が鈍くなり、「サンドブラスト」で研磨されたような表面状態で滑らかになっています。プリフローガスを点検して、湿気がないか調べます。キッチンペーパーでクイックチェックができます。システムにガスを流しながら、きれいなキッチンペーパーをトーチの下に当てます (テストモードまたはガスチェックモードのみで行ってください!)。ペーパーに湿気や汚れがついてはなりません。
|
図 6
|
クーラントの漏れ 図 6 - クーラントの漏れは、最も簡単に見抜くことができる問題です。電極の表面と側面の重度のアークは、電極表面の凹みやくぼみが特徴です。前方の表面は粗く、つやのある融解したホルダー材の跡で黒くなっています。この問題は頻繁に、O リングの切断、O リングへの不十分な潤滑油の塗布、または部品のゆるみやずれが原因です。
|
図 7
|
プリフローの低下 図 7 - アーク開始中のガス流量が不十分であると、「レイジースタート」と呼ばれる、アークが開始点 (通常はレンチフラットのように鋭い角) から放射エレメントまで移動する時間が長すぎるという問題が発生します。これらの部品には、くぼみの周りに融解したホルダー材のかなり均一な輪ができます。表面は、ハンダが飛び散ったように見えたり、部品の前面に沿って溶接パドルができることがあります。
|
図 8
|
ブローアウト 図 8 は、致命的な故障が起こるまで摩耗した電極を示しています。電極は上流にあるので、溶融した素材が部品の端から吹き飛ばされてノズル内部に蓄積することで、ノズルの損傷を起こします。長い間使用していると、すべての部品がこれと同じ過程で故障します。
|
図 9
|
ブローアウト 例 9 はプラズマガスの低下 (立ち消え) を示しています。電極の末端全体に小さなへこみが無数にあり、ノズルの内側にも同じような損傷が見られる場合は、ガス流量の低下を示しています。ガス流量が低下すると、ノズルと電極間のアーク放電がコントロールできなくなります。トーチへのガス流量率を調べます。最善の方法は、テストするシステムのトーチのアウトレットに流量計 (0~400 cfh) とホースを接続して行う方法です。これができない場合は、プラズマガスだけをオンにして、トーチのアウトレットでガスの流れを感触で調べるクイックチェックを行います。吸い込み力がある渦巻きガスの流れが実際に感じられるはずです。
|
図 10
|
高すぎるガス流量 図 10 - ノズルが良好な状態にあり、電極に深いくぼみが見られる場合は、プラズマガス流量が多すぎることが考えられます。プラズマガスの渦巻きが激しすぎると、エレメントが速く浸食します。これにより急速な摩耗が起こります。プラズマガスの流量容量を調べてください。
|